日本語要旨

西部北太平洋のトワイライトゾーンにおける1mm未満のフェオダリアによる炭素輸送の定量評価

西部北太平洋は、大気中のCO2が海洋沈降粒子として深海まで効率的に輸送される海域の一つであり、フェオダリアの高い生物量が観測されている。しかし、海洋沈降粒子中のフェオダリアの遺骸に含まれる炭素は、生体に比べわずかな量しか残っていない。そのため、従来の元素分析計を用いた分析では、1 mm未満のサイズのフェオダリア(以下、<1 mmフェオダリア)による炭素輸送量を定量することは困難であった。
本研究では、超高感度元素分析計を用いた高感度な分析技術と既存のフェオダリアの体積-炭素量の関係式を併用することにより、この問題を克服した。まず、西部北太平洋において、フェオダリアの各種の生息深度分布をプランクトンネット観測により明らかにした。また、同海域の水深1000 mに設置したセジメント・トラップにより海洋沈降粒子を採取した。そして、その中からフェオダリアの遺骸を拾い出し、超高感度元素分析計を用いて残存炭素量を測定した。さらに体積-炭素量の関係式からフェオダリアが生きていた時の炭素量と、沈降後に残った炭素量を比べることにより、深海まで輸送される炭素の割合(炭素残存率)を推定した。標本数が少なく、超高感度元素分析計を用いても炭素量を測定できないような種であっても、生体の炭素量に生息深度に対応する炭素残存率を掛け合わせることにより、残存炭素量を推定することができる。これにより、水深1000 mにおける<1 mmフェオダリアの炭素輸送量を初めて定量化した。
その結果、<1 mmフェオダリアの炭素が海洋沈降粒子の有機炭素輸送量に占める割合は、1.1~12.5%の範囲で変動し、平均では3.5%と無視できない量であった。これは全フェオダリアの炭素輸送量の6割を占め、これまで見過ごされていた<1 mmフェオダリアの炭素輸送量を定量化することが、大気中のCO2濃度を左右する海洋内部の炭素の動きを理解するために重要であることが明らかになった。また、本研究手法は、他の海域やプランクトンにも応用可能で、海洋内部の炭素の動きに対する単細胞プランクトンの地球規模での役割の解明に貢献すると期待される。