東アジアにおける降水同位体の日々変動に対する蒸発の影響
- Keywords:
- Precipitation isotopes, Isotope circulation model, Dynamic isoscape, Long-term climate reanalysis, Evaporative isotopic process
降水中の安定同位体は、水循環や物質輸送を追跡するための強力なツールとなる。従来の観測はGNIP(Global Network of Isotopes in Precipitation)に代表されるように月単位で実施され、これに基づき統計的・地球統計的手法により空間補間するアイソスケイプモデルが開発されてきた。しかし、観測点の空間的密度は十分ではなく、地域によってはトレーサー研究が制限されている。近年では日単位あるいはイベント単位での同位体データの需要が高まっており、静的な長期平均モデルに代わり、動的に変動を再現するモデルが必要とされている。本研究ではYoshimura et al. (2003)の同位体循環モデルを基盤とし、地球表面の蒸発および雲底下の雨滴蒸発などの蒸発過程における同位体プロセスを組み込むことにより、日々の降水同位体変動を再現する動的アイソスケイプモデルを開発した。1996年から2003年の期間を対象とし、JRA-3Q、JRA-55、ERA5、MERRA-2の4種類の再解析データセットを用いて1時間解像度のシミュレーションを実施した。得られた日単位およびイベント単位の降水同位体組成の結果は、海洋性気候(関東平野)、大陸性気候(モンゴル高原)、これらの中間的な気候(華北平原)における観測データを用いて検証した。シミュレーションは観測された変動を概ね再現し、特に関東平野では再現性が良好であった(δ¹⁸OのRMSE=1.61‰)。他の2地域では、土壌水および地下水の同位体組成の不確実性が降水アイソスケイプに強く影響するため、精度は相対的に低かった。d-excessの再現性はδ値に比べて低く、とくに雨滴蒸発の影響を強く受けることが示された。これらの結果は、降水中の同位体の日変動が、大気中の水蒸気の輸送・凝結と、地表および雨滴からの蒸発の双方に強く支配されることを示している。したがって、蒸発時の同位体分別過程をより適切にパラメータ化することが、日変動を考慮した降水アイソスケイプの再現性向上につながると考えられる。