日本語要旨

繊維で構成される凝集体の衝突および低速圧縮によるエネルギー散逸

空隙率の高いダスト凝集体の力学特性は,惑星形成の過程を理解するためには欠かすことの出来ない要素である.しかし,室内実験において空隙率の高いダスト凝集体を作成することは容易ではない.この問題を解決するため,我々は繊維が絡まることにより構築されるダスト凝集体を作製した.具体的には,掃除機の紙パック内の乱流環境中で絹繊維を絡み合わせることでダスト凝集体を構成した.この方法で生成されたダスト凝集体の固体分率は,従来の粒子により構成されるダスト凝集体と比較して極めて低く, となった.この新しいタイプのダスト凝集体の力学的特性を明らかにするため,地球重力下において,硬い床面への自由落下衝突(跳ね返り)実験と静的圧縮試験を実施した.
自由落下衝突実験では,センチメートル・スケールのダスト凝集体の程度の衝突速度における反発係数(coefficient of restitution; COR)を,衝突と跳ね返りの動画の画像解析に基づいて測定した.測定されたCORはほぼ一定で,0.1–0.2となった.
一方,圧縮試験では,ダスト凝集体を4–6 mNの圧縮力までゆっくりと圧縮し,その後,ゆっくりと復元するサイクル試験を行った.この過程において,圧縮力のヒステリシス挙動が観察された.
これらの2つの実験結果に基づき,繊維からなる変形した高空隙率ダスト凝集体におけるエネルギー散逸の程度を定量的に評価した.本研究の成果は,繊維状ダスト凝集体が今後の惑星形成研究において有効な模擬物質となり得る可能性を示唆している.