日本語要旨

中部日本佐渡島に分布する中新統中山層のサイクル層序とその古海洋学的示唆

珪質堆積物は古気候・古海洋学的に重要な堆積物であるにもかかわらず,炭酸塩堆積物に比べてその年代決定は一般に困難である.一方,中新世の日本海で形成された一部の珪質堆積物には,地球軌道要素スケールでの堆積環境の変動が報告されており,サイクル層序が年代決定に有用である可能性がある.本研究では,新潟県佐渡島に分布する中新統中山層を対象に陸上露頭調査を行い,X線蛍光分析およびX線回折分析により堆積物の主要元素組成および主要鉱物組成の変動を求めた.その結果,堆積物に含まれる生物源シリカと砕屑物の量比の変動が地球軌道要素スケールの周期性を持つことが明らかとなり,それらの変動と地球表層の気候変動指標である全球底生有孔虫酸素同位体比曲線に対してサイクル層序対比を行うことにより,高解像度年代モデルを構築した.また,様々な元素組成および鉱物組成の変動から,特に約11.4–10.8 Maにかけて底層水が還元的になっていたこと,それには東アジアモンスーンの変化に伴う鉛直循環の変化が関係していることが示唆された.さらに,そのような堆積環境の終焉が一時的な温暖化イベントとして知られるTortonian thermal maximum (TTM)のタイミングと一致することが判明した.このように,本研究で構築した中新統中山層のサイクル層序年代モデルに加え,本研究で用いた手法を他の珪質堆積物に応用することにより,珪質堆積物を用いた古気候・古海洋学的研究の発展に寄与することが期待される.