地震活動解析のためのネットワーク相関係数計算コード "DiallelX"
- Keywords:
- Seismic event detection, Matched filter analysis, Network cross-correlation coefficient
微小地震波形の検出は、活断層の形状や地震活動の調査、あるいは岩石実験中に発生する微小破壊の検知において重要となる。その検出には、既知の地震波形 (テンプレート) と連続波形を比較するマッチドフィルター解析が有効である。 具体的には、テンプレートと連続波形の正規化相関関数を全チャンネルで合計したネットワーク相互相関係数 (NCC) が、所定のしきい値を超えた場合にイベント発生と判断される。しかし NCC の計算負荷は高く、大規模データセットの処理においては、並列処理やメモリ消費の効率を改善し、計算を高速化させる必要があった。
我々はこの課題を解決するため、新たなアルゴリズムとプログラムである “DiallelX” を開発した。DiallelX は、周波数領域での計算を利用して NCC を近似することで、高速かつメモリ効率の高い処理を実現する。厳密な NCC を計算するわけではないものの、その精度と速度のトレードオフをユーザがコントロールできる。結果的に DiallelX は、シングルスレッド上でも従来のソフトウェアより高速に動作するだけでなく、高い並列化効率を実現した。また実行時間がチャネル数に比例しないため、マルチチャンネル解析に特に有効である。さらに、従来法に比べ大幅にメモリ使用量を削減している。これは、 DiallelX が各ウィンドウとテンプレートのペア間の NCC 値を必要なものに限って保存するためである。
このコードにより、数年にわたる連続地震波形データと数千のテンプレートイベントを用いたマッチドフィルター解析が、一般的な CPU で数時間から数日のうちに完了する。実際、既に数 TB に及ぶ実験データの解析にも貢献している(https://progearthplanetsci.org/published/article_664/)。 地震イベント検出の効率を大幅に向上させるツールとして、DiallelX が地震学コミュニティに貢献すると期待される。